おうさまのみみはロバのみみ

ネット上での木の洞

ユーリ!!! on ICEを見た

冒頭からなんだがぼくは久保ミツロウという漫画家が好きでない。

嫌いなのではなく好きではない、だ。 理由は簡単でこの漫画家の描く主人公に対して同属嫌悪を抱いてしまうからだ。

久保ミツロウ氏の漫画を見たことがある人にはわかってもらえるかもしれないが この方の漫画の主人公はなんというかだいたい劣等感にさいなまれるタイプであることが多い。 特にこれが顕著だと思われるのが「モテキ」だろう。ドラマ化もしたので知っている人も多いかと思う。 ぼくがこの漫画家が好きではないと思った決定機でもある。 (ぐぐったら映画化までしていたようだ…)

www.moteki-movie.jp

久保ミツロウ氏の描く主人公像には大小の差はあれど、作者の欠点が反映されているようにぼくは感じる。 (モテキのインタビューかなにかで主人公のモデルは自分を男性にしたらこんな感じの面倒くさいやつになると思って描いたといったようなことが語られていたので全くの的外れということはなかろう)

その主人公とぼくが表面的な部分はさておき、この劣等感というか自己嫌悪的な部分において根が近いというかまぁ同属であるのだ。 良くも悪くも読者のそういった触れてほしくない心の弱さをゴリゴリと抉ってくるのだ。 「ぼく、オタリーマン。」などは自身を曝け出しながらも笑い話としての着地点が用意されているためそういったことにはならないのだが この久保ミツロウ氏の作品はぼくにとっていつ読んでもなにを読んでも痛く、つらい。 ある意味では漫画家としての才能に溢れているのかもしれないとは思う、好きな人にはとてつもなく面白い描き手だろうとも感じている。

だがしかし、ぼくはこの漫画家が好きではないのだ。触れてほしくない心の内側の柔らかく脆くて弱い自身の心をこれでもかと突きつけてくるように感じ、嫌悪してしまう。 自身の弱さは自覚しているつもりだが他人からそれを突きつけられて平然としていられるほどぼくは強くないのだ。 そしてそういった点を自覚してしまう自分にも嫌悪を感じるため、出来るだけ見ないように見ないように目と耳を閉ざしてきた。 つまりはまぁ久保ミツロウ氏が描くところの面倒くさいやつなのだ。

なので今期アニメで件のユーリ!!! on ICEに久保ミツロウ氏が関わっていることを知ったときに放映前の段階で見ようと思わなかったくらいには苦手に思っている。 あるいはフィギュアスケートが題材であったこともその理由の1つかもしれない。 (ぼくはフィギュアスケートの良さが理解できていないのであまり好んでいない、理由は後述してある。)

ところが先日iPhonePodcastで購読している「そこ☆あに」449回目『2016年秋アニメ新番組青田買い』特集を聞いてちょっと心変わりした。

sokoani.com

内容に関しては↑を聞いてもらえればと思う。 話している内容自体は全体のほんの僅かではあるのだが(どうやらこの回の前がユーリ!!! on ICE回だったようだ) このアニメの舞台である長谷津のモデルとなる唐津市聖地巡礼にいった話しになったところで初めて興味を抱くことになった。 このパーソナリティー曰く「こんなにいいところなのにもったいない!もっと聖地巡礼としてアピールした方がいい!」というのがちょっと気になり 恐らくいつものように途中で久保ミツロウ節が嫌になって見なくなるだろうと思いつつとりあえず1話だけみてみようという気になった。

ところが確かに久保ミツロウ氏の作品に登場する主人公のパターンに漏れず主人公の勇利は劣等感というか欠点があり癖のある人物ではあるものの 久保ミツロウ氏の作品にしては自虐と言うか劣等感にさいなまれて絶望するという鬱屈とした展開にはなっていないのである。 これは恐らくは山本沙代なる人物がいい意味でブレーキをかけているからなのだろうと思う。 このことで一気にぼくはこのアニメにのめり込んだ。

特に気に入ったのが音楽でなんというか引き込まれるのだ。 ぼくはよく漫画やドラマなどで音楽を聞いてストーリーが展開される…というようなことを感じたことがないのでよくわからないが どの曲も心地よく、またキャラクターの性格を表しているように感じる。 あるいはそういった点も計算されて皆、キャラクターが立っているのかもしれない。

このアニメをみている最中にふと思い出したことがある。 確かロンドン五輪の際の出場選手の決意表明だか選手壮行会だかのインタビューで奇異な選手が1人だけいた。 その奇異な選手とこの作品の主人公、勇利がどうにも妙なところで重なるのだ。

その選手とはアーチェリーの古川高晴選手だったように思う、記憶違いで全く別の選手であるかもしれないのでその点は容赦願いたい。 (記憶違いの可能性があるため以後は件の選手と表させてもらう) 確かNHKのドキュメンタリーかなにかだったと思うのだがその番組で彼は「世界の強豪選手を相手に勝てるかわからないのでとにかく楽しんできます」というようなことを言っていたように思う。

それを聞いた当時のぼくは少々虚をつかれた。 これはぼくだけではなかったのではないかと思う。

いわゆるトップ選手の決意表明というのは「全力で頑張ります!」だとか「勝って金メダルを持ち帰ります!」だのという闘争心むき出しのビッグマウスであることが多い。 サッカー選手の本田圭佑選手などはその典型だろう、彼はそうやって自分にプレッシャーをかけること、言葉にすることで逃げ道を塞いできたというようなことを聞いたことがある。

これはそういう追い込みをかけることで背水の陣を強いているのだと思っていた。そうしなければ五輪に出るような強豪選手と渡り合えないというふうにぼくは理解していたし トップの選手というのは大なり小なりそういう気持ちの部分で負けるわけにはいかないのだろうと考えていたからだ、その些細な気持ちの差が勝敗を分かつ重大な要素なのだろうとも。

ところが件の選手は負けるかもしれないが頑張る、というような傍から見れば弱気な発言をしていたのだ。 これを聞いたぼくの父親は「覇気が足りない!今からこんなでは早々に敗退するだろう!」と憤慨しきりであった。 ぼくも意外に思いながらも我が父親に半ば同意していたのだ、トップ選手でこのように弱々しい発言をしていては好成績は望めないだろうと。

ところが実際にはロンドン五輪の個人銀メダリストになった、そこでまたもや虚をつかれることになったのだ。 ドキュメンタリーではその発言の真意が語られた。

曰く、彼はメンタルが弱く虚勢を張ることが逆効果になっているのだと。 だからいっそのこと通常とは真逆のアプローチを行うことでリラックスした状態で試合に望めるようにしたと。 実際に件の選手は結果を出したわけなのだがその強くて弱い姿がこのアニメの主人公と妙に重なって見えるのである。

今後ボクがフィギュアスケートを好きになることは恐らくないだろう。 それはサッカーや野球などの点取りゲームのようなより多く点数をとった人間が勝つという単純さとフィギュアスケートがかけ離れており 芸術点などの人の感性に左右されるものが点数で表されるというところがどうにも理解できないからだ。 これは別にフィギュアスケートに限ったことではなくて例えば吹奏楽などの順位付けも正直理解できない、金賞を得ても1位じゃないのが理解できない。 同率1位というならばまだわかる、それは他のスポーツなどでも起こり得るしそういったことならば納得できるのだ。

だけどそれでもこのユーリ!!! on ICEというアニメは面白いとぼくは思う。 フィギュアスケートに興味がなくても理解が出来なくても伝わる面白さがこのアニメにはあるように感じる。 これは同じく今期のアニメである舟を編むでも似たようなものを感じる点だ。 久保ミツロウ氏の作品はやはり今でも好きになれないとぼくは思う、同じような理由で敬遠している人も少なからずいると思う。

そんな人たちにこそこのアニメを見てほしいと強く感じたため筆を執った次第である。 唐津といえば唐津焼くらいしか知らなかったがこの件で一度旅してみたくなった、そういえば九州には幼いころ一度宮崎にいったきりであるし 暖かくなったら聖地巡礼を兼ねて温泉に入りによってみようかと思案している。

追記:

そういえばOPをディーン・フジオカが歌っているのだけども意外とこれがいい曲だ。 OP映像も当初は物足りないように感じたが何度か見ているうちに逆にこれ以上演出を入れると野暮というものだなと感じるようになった。 なんとなくワクワクとした気持ちにさせてくれるのだがこれはぼくだけかな? ともあれディーン・フジオカは好きな役者さんの1人なので少しうれしく思う。