「納品」をなくせばうまくいくとリモートチームでうまくいく

結論:

紹介する両著は一応続きものではないが1セットとして考えたほうが良い。 まとめて購入、読了するのが一番よい読書体験を与えてくれるだろうと思う。

「納品」は仕事全般に関してのソニックガーデンの流儀について書かれている。 片や、「リモートチーム」はリモートワークについて書かれているかと思いきやリモートチームについて非常に詳細に書かれている。

両著ともに読んだ感想としては

「これはソニックガーデンに最適化されたメソッドであり、どこか一部だけを表面的に真似しても間違いなく失敗する」

ということだ。

特にこれが顕著に感じられたのは「リモートチーム」だった。

リモートチームでうまくいく

読了前の正直な気持ちとしては「リモートワークを行っていない会社でリモートワークを採用するにあたりなにかしらの参考になるものがないか?起業したときにリモートワークを採用したいと考えたときどのような準備が必要か?」を一部なりとも得られると考えていた。

結論からいうとリモートチームを読んでリモートワーク採用のより一層の厳しさを再確認することとなった。 その理由としてリモートワークには以下の3つの点が必要不可欠であり、これを(現在の会社、あるいは自分で起業したと仮定して)実現するのが相当にハードだと考えたからだ。

  1. チームメンバー全員がセルフマネジメントを習得している
  2. チームメンバー全員でコンテキストが共有できている
  3. チームメンバー全員が問題の本質を問うことを厭わない

何故この3つが必要不可欠だと考えたかは書籍に書かれているので敢えて書く必要がないため割愛する。

ただその上でやはり「語学留学をしながら、リモートワークがしたい!」という情熱に火が灯った。

まず1つにセルフマネジメントが自分が目指す理想のチーム像には不可欠であること、そしてセルフマネジメントはどこから急に降ってわいてくるものではなく創意工夫と努力によってのみ培われる類のスキルであること。

そして、何よりも「自分の中でやってみたい人生の目標」の1つである海外で働き、生活するという目的を叶えるための手段として非常に有効的であることの証明に本著が多大な貢献をしたこと。

この2つの理由、より正確にいうならば後者の理由がぼくの中で燻っていたなにかに火をつけたように思う。 リモートワークをリモートワークの文化がないところで途中から採用するのはかなりハードルが高いと思う。 実際、現職でぼくがリモートワークをしたいと考えても、恐らくその実現は厳しいものとなるだろうと予測する。

それはリモートワークが採用されない、ではなく採用されたあとにリモートワーカーとオフィスに出て仕事をする人との間に溝が出来てしまうことに起因する。 最終的にチームメンバー間に高確率で不和を起こすことになり、結果「やっぱりリモートワークはやめよう」となる未来がありありと想像できるからだ。

そういう意味でいうとこれはリモートワークを採用したい人が読む本、ではなくリモートワークを採用出来る権限のあるマネージャー層が読むべきといえるかもしれない。

「納品」をなくせばうまくいく

Web系企業でどうしても受託開発というものは魅力に乏しい。 自社サービスのように自分たちが主役、改善も問題提起も全て自分たちのもの!という楽しさが受託開発では薄い。 クライアントから「全くエンドユーザのことを考えていない」機能の実装を頼まれる、しかもなるはやで…つらい。みたいなイメージとかビジネス形態としてはあまりポジティブな印象を受けることがないと思う。 安定してお金を稼げるから経営層としてはネガティブばかりではないと思うが、実際に手を動かすエンジニアやデザイナーには多少なりとも不満を抱くケースが多いように思う。

この本の中で非常に面白い、感銘を受けた一文がある。 それはこのソニックガーデンのパートナー企業の1つである会社のかたの発言で

「なぜ、システムだけは素人が考えたもので、一回のチャンスで完成させなければならないのか」

というものだ。

世の中には腐るほど沢山の職種があるが、どの職種も失敗が許されている。 ところがシステム開発だけはそうではない、最初から完璧な要件定義を素人に求め、海の物とも山の物ともつかない人間に信頼を担保に全額負担し、しかもそれでいてそのシステムが自分たちの望んだものかどうかは動かしてみないとわからない。 なのにその動かしたときに意図と異なる動きをしていたので修正を依頼すると更なる金額が要求されてしまう。

というような話しのニュアンスのあとでの1文である。

開発会社は「納品をすること」がゴール、依頼者であるクライアントは納品され、実際にリリースされてからがスタート…というこの認識のズレがあると本著では書かれている。 「ソフトウェアの完成」を目指すのではなく「ビジネスの成長」を継続的に求めよと様々な形で本著では主張されている。

そのための月額定額制での受託開発だと。

ただ「リモートチーム」と同じく非常に大きな問題を抱えており、表層だけをなぞるとこちらも大やけどをすることになるのは必定!と考えている。

「なんのために?」という問題の本質、イシューをソニックガーデンは見つけているのだ。 そのイシューの成否はわからないがそれを軸にして全てが成り立っていくわけなので例え他の会社が外っ面だけ真似したとしても真逆の結果が出ても驚きに値しない。

そしてソニックガーデンでの「集中と選択」の経緯やモチベーションについて事細かに書かれているのが非常に良い。 Amazonのレビューでこれを「やっていることやその意味はわかるし応援するが自社で導入するのは難しい」といったニュアンスのレビューがついており、 それこそがこの本を端的に表したコメントだと読了したあとだからこそより一層感じる。

この納品をなくすという考えもあるのだ!、そしてそのターゲット層はこのような人たちだ!という非常にクライアントも選ぶし、自分たちが採用する技術だって選ぶ。 とにかく「本当にやらなければならないこと」を実現するためにありとあらゆるものを削ぎ落としているのが読んでいく内にわかってくる。 非常に刺激を受けるとともにこの本を手に取るひとにとって自社の改善に繋げにくいというデメリットもきちんと書かれているのが好感を持つ。

なによりそれを著者自身が自覚しているのがいい。

まとめ

「納品」も「リモートチーム」もソニックガーデンのメンバーたちだからこそ成功したのだ!という大きな事実がある。 それを踏まえたうえで「では自分たちに足りないのはなんであろうか?」と考えるのが本著を手に取る最大のメリットであるように思う。

もしこの本を読んで「明日からリモートワークやっていき!」とか「これからは納品やめるぞ!」とか言い出すやつがいたらそれはたぶんかなりの危険思考なのでさっさと正気に戻したほうがいい。 そんな本です、実にエモい内容の本なのだけどそれだけに留まらずきちんとその裏側の泥臭い面などが詳細に書かれていてよい。

ところでこんなエモい本を週末に読んで、月曜日会社に意気揚々と出社すると現実とのギャップに打ちのめされること必至なので、週末ではなく平日の夜や通勤時間中なんかにちまちまと読んでいくことをおすすめする。